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Jul 10, 2024
2 min read

「樹は語る」を読んでみました

清和研二さんの樹木シリーズを久しぶりに読みました。とくにホオノキのページは木の生態学的な特徴について面白いことがかかれていたので共有します。

ホオノキの葉、木漏れ日が美しい 出典:Hida_00682.webp

「樹は語る」

清和 研二さんは北大出身で東北大学名誉教授。 1954年山形県櫛引村(現鶴岡市黒川)生まれ。

他に、「樹と暮らす」、「樹に聴く」の「樹木シリーズ」が有名で、どれも似たようなテイストで科学的に詳しい所まで書かれていますが、それをわかりやすく、親しみやすく説明してくれているおかげで木についてあまり興味がない人でも楽しめる本です。

ずっと前からスギやヒノキだけでない広葉樹がいっぱい生えた森作りについて考えておられる方です。

私も彼のようにうまく語れるようになりたいです。

ホオノキについて

この本はさまざまな樹木、たとえばミズキやミヤマハンノキなどの生態学的な観点から紹介してくれるのですが、そのホオノキについての項目をピックアップしてみました。

ホオノキのギャップ探知能力

ホオノキは遷移初期種で、林の中で土砂崩れや風による倒木などがあってぽっかり空が開けた所(ギャップ)ができるとそこにあるホオノキの種子は真っ先に発芽して上へ上へと伸びていく。

ホオノキの稚樹 出典:Hida00190_YoungHo_2024-06-08_14-03.webp

このギャップができたことを感知するトリガーは種によって違う。

たとえば、光が差し込んだことを感知するものもある(シラカンバなど)

しかし、朴の木の場合は「温度」に頼っている。

正確に言えば「温度差」だ。

この理由は反応できる深度の違いにある。

光に反応する(赤色光/遠赤色光比)に頼っていると1cm以上下に埋まっているものは感知することができない。 つぎに雨などによって上の土砂が流されたときに発芽できるかもしれないが、そのときにはギャップはもう埋まっているかもしれない。

しかし、変温に頼ると地中5~10cmのところに埋められていてもギャップができて光が差し込むと感知することができる。 昼夜の寒暖差は土の深くにまでシグナルを送ってくれるのだ。

大きなマグノリアフラワー

ホオノキの大きくて香り高い花は見た目によらず、繊細な咲き方をするという話。

1億年前からこの姿を残しているモクレン科の花がすでに完成させた優れたシステムを持っていることには本当に脱帽しか無い。

その咲き方は「雌性先熟タイプ」である。

花の中にある雄しべと雌しべのうち、雌しべの方が早く熟すのだ。

こうして雌雄の成熟時期をずらすことで自分の花粉で受粉してしまう自家受粉を防いでいる。

ホオノキの花はいったいどうやって咲くのか。

まず、花芽が大きく膨らみはじめ外側の大きな芽鱗を落とす。 しだいに、薄ピンクの3枚の萼片の中から大きな白い花びらが顔を出す。 そして花びらの先端が少し開き中が少しだけ見えるようになる。 中をむりやりのぞきこむと先の尖った太い円筒状の軸の上のほうに雌しべが螺旋状に並んでいる。

p.216

 出典:IMG_20240520.webp

先端が反り返っているので花粉を受け取る準備が整っているようだ。 しかし、雄しべはまだ開いていない。 雌しべの下で軸にへばりついている。

p.216

花の寿命は大きさの割にあっけないほど短く、2日ほどで落ちてしまう。

また、それだけでなく、同じ木の花が一斉に咲くこともない。 蕾のものから満開、枯れかかっているものまでさまざまで、だいたい5月の中頃から1ヶ月かけてつぎつぎに咲いていく。

たくさんの樹冠上の花、てんでばらばらな咲き具合 たくさんの樹冠上の花、てんでばらばらな咲き具合

こうして樹冠上でも同じ個体での自家受粉を防いでいるのだ。

しかし、これほどまでに自家受粉を防ごうとしているが、実際は自家受粉の割合が高い。

理由としてはミツを出さないため、マルハナバチなどの媒介者にとって魅力的ではないのだ。

石田清さんの実験によると8~9割が自家受粉という。

また、京都大学の大学院生の松木悠さんによると甲虫類が、甘い芳香で呼び寄せられて花粉を運んでいるという。

花粉を食べに来たハナムグリは最大で1,100mも離れたホオノキに花粉を運んでいることを明らかにしたという。

枯れたホオノキの花。しなびて茶色くなった花びらが垂れ下がっている

枯れた花

えもいわれぬ不気味な果実

ホオノキの果実は大きく、一つの花の雌しべ1つ1つが袋となって集合果を形成する。

11月ごろに葉が落ちてくるころに熟し、葉が落ちてからもついたままの実もあれば、風で落ちる実も。

 出典:IMG_5149.webp わかりますか?

ホオノキの実が木の上についているのが、

もっと拡大してみたのがこちら、

 出典:IMG_5148.webp

あのつくしみたいなものが、ホオノキの果実です。(集合果)

受粉に成功したものが多いと袋の中に1,2つの果実が入っているが、年によっては空っぽのときもある。

 出典:IMG_5150.webp

種子の色は茜色。 中からは朱色の鮮やかな種子が出てくる。

とても奇妙で秋の山の中で見つけるとびっくりする。

「ボトリ」と落ちてくるときもホオノキらしい豪快さがある。

よく萌芽するホオノキとツルアジサイ

ホオノキは個体が元気なうちも萌芽(ほうが)する。

株の根本から新しい小さな株が出てきて、年を経るごとに大きくなって何本もの樹が同じ場所から生えているかのようになるのだ。

そして、そこにツルアジサイやイワガラミが絡まってくる。

 出典:Hida_00924.webp まさにこんな感じです。

下の方に見える少し背の高いスライム形の葉っぱがツルアジサイです。

ホオノキをそこまで邪魔することなく、森の中の緑をより重層的にしてくれている気がします。

おわりに

朴葉の研究をしていると、たまにみなさんから「ホオノキについて少し説明してよ」って言われます。

どこまでの話をどう説明すればみなさんは喜んでくれるのだろうか。

そう考えながら、最近は雌性先熟の話や、太古の姿を残した原始的な花です。のようなことをお伝えしていますが、もっともっといろいろな魅力がある樹です。

その魅力を余すことなく伝える機会にできればと思っています。

ありがとうございました。